はじめに
小沢健二『So kakkoii 宇宙 Shows』で感じたこと
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CMで『今夜はブギー・バック』のカバーがBGMとして採用された サントリー『ほろよい』宣伝スタッフ一同からのお花。 (2022年6月3日パシフィコ横浜にて撮影) |
僕は元々、齢(とし)をとることを明るいイメージで描く。「愛すべき生まれて育ってくサークル」もそうだ。動物も人間も、生まれて、育って、死んでいく。「死ぬ」というのは若者にとって、興味深く、ロマンチックでさえある。でも、若者という時期を過ぎると、死ぬことを話題にするのはタブーになる。けれど、やっぱり、生まれて育って死ぬ、ということは、ものすごく大きな輝きだと思う。この「大きな輝き」という言い方が、君には伝わると僕は知っている。そういう人だから、あなたは僕の歌をどこかで見つけ、今ここに来ているのだ。ー小沢健二『So kakkoii 宇宙 Shows』ライブのオープニングの朗読より(※言葉の表現などの詳細は異なる可能性があります)
だれ??
— ルイス・バジェ (@luisvalle_info) July 1, 2022
Quienes son ?#PowerHorns!^_^
先週終わった #小沢健二 さんツアーのバンド衣装でした、なかなか面白い🤣
暑かったけど楽しかった、ありがとうございました♪
小沢健二さんもお疲れ様でした。
Seguimos haciendo música. pic.twitter.com/VjIMRsdZHb
小沢健二さんが長年思い描いていたライブへの想い
30年前、作ったばかりのdoor knock musicで語られた夢のような構想
2022.6.26 小沢さんのツアー最終日に行く。余りの素晴らしさに2時間半、自分が微動もせず単に音を吸収する黒い物体になっていた。そこには、30年前、築地に作ったばかりのdoor knock musicで、小沢さんが語ってくれた夢のような構想が姿を現していた。(佐藤雅彦) pic.twitter.com/iaBylxvNzV
— 作り方を作る (@sato_masahicom) June 29, 2022
Paradise Garageとは?
パラダイス・ガレージ (Paradise Garage) は、かつてアメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン区ハドソン・スクエア地区のKing Streetにて存在したディスコ。1977年にオープンし、1987年8月22日のClosing Partyを以ってクローズした。客層は主にゲイの黒人であり、伝説的なDJ、ラリー・レヴァンがプレイしていた。ラリーは幅広い音楽の知識を元にディスコ、ロック、ヒップホップ、ラテン音楽、ソウル、ファンク、テクノ・ポップなどありとあらゆる音楽を掛けて一晩中客を踊らせていたが、その有様はそこに集う客の熱狂を伴ってほとんど宗教儀式のようであったと言われている。また、ラリーは独学ながら優れた音響の専門家でもあり、エンジニアのリチャード・ロングと共にパラダイス・ガラージに自らの手で構築したサウンドシステムは大音響でありながら非常にクリアな音で、ダンスフロアの中央にいても容易に客の間で会話ができたとも伝えられている。多くのニューヨークのDJがパラダイスガレージとラリーのDJスタイルに衝撃を受けてDJの道へと進み、現在に至るも史上最高のクラブの一つとして語り継がれている。ラリーがパラダイスガレージで掛けていたような音楽やその進化した形の音楽はガラージと呼ばれるが、これはハウス音楽や、テクノ音楽に大きな影響を与えた。また、そのサウンドシステムもその音質の高さから未だに伝説として語られている。パラダイス・ガレージという名前は、このディスコがあった建物がかつて駐車場(ガレージ)であったことに由来している。その様子についてはクラブが失われた今となっては想像や伝聞に頼るしかないが、ラリーのDJプレイを録音したものがCD化されており、かつての熱気をうかがうことができる。 ちなみに、主な客層であった黒人訛りでは「パラダイス・ガラージ」と発音することから、一般的に音楽のジャンルとして「ガラージ若しくはガラージュ」と称されることが多い。(Wikipedia 「パラダイス・ガレージ」より)
Larry Levanについて
Larry Levanは1954年にニューヨーク州ブルックリンで生まれました。
彼には先天性の心疾患があり、幼い頃から喘息に苦しんでいたそうです。
ブルース、ジャズ、ゴスペルなどの音楽が好きだった母親の影響で、3歳からレコードプレーヤーで音楽を聞いて育ちました。
その中の親友のひとりが、後にシカゴでハウスミュージックを創始することになるFrankie Knucklesだったそうです。
2人はすぐに意気投合し、NYのクラブで遊ぶようになります。
その時に出会った人々とのつながりが彼の人生を決定づけることになったようです。
彼はその時のつながりでクラブで仕事をするようになり、仕事をする中でDJ技術を学んだそうです。
1973年、18歳の時にクラブ付きの同性愛者向け複合施設 The Continental BathsでDJデビューをし、やがてこのクラブでレジデントDJをするまでになりました。
その後、Larry Levanのために作られたクラブがParadise Garageです。
Paradise Garageがオープンした1977年のアメリカはディスコ・ブームのピークで、特にニューヨークのディスコ・シーンは、アンディー・ウォーホルやカルバン・クラインなど、ニューヨーク中の著名人たちが毎晩のように集ったことでも知られたナイトクラブ「STUDIO54」や映画『サタデー・ナイト・フィーバー』の世界的ヒットにより、華やかな白人文化の象徴として世界に紹介されており、ビー・ジーズやアバなど白人アーティストに注目が集まっていました。
一方、Paradise Garageの客層は黒人やヒスパニック、LGBTQなどマイノリティ層がメインであり、そこで若干23才のLarry Levanは、R&Bやサルサをベースにしたソウルフルな熱いサウンドでフロアを盛り上げていました。
Paradise Garageでは、土曜日の夜はゲイ向けのイベントが、金曜日の夜はストレート向けのイベントが行われ、キース・へリングやグレイス・ジョーンズ、カルバン・クラインなどの有名人が常連だったそうです(キース・へリングはParadise Garageの壁面にアートを描いていました)。
Paradise Garageはダンスの聖地であるとともに、当時まだまだ白人優位社会であったアメリカにおけるマイノリティの人びとにとっては、非日常を体感し、自分自身を取り戻し、生きていることの喜びを感じ、強いメッセージを受け取り、日常への活力を得る、そんな場であったようです。
Paradise Garage(パラダイス・ガレージ)ダンスの聖地 - ハウスミュージックの歴史③ - ハウスミュージックラバーズ
またLarry Levanは現代のダンスミュージックに特徴的な様々なスタイルを確立しました。
1970年代には、ただヒット曲を流すのではなく、DJが自らの個性を発揮した選曲で独特の世界を作り上げて客を踊らせるスタイル、2枚のレコードをミックスして継ぎ目なくレコードを演奏するスタイル、既にある曲をリミックスしてダンス向きにする手法、クラブで掛けるためだけに製造される12インチのシングル盤といった形式などが、ラリー・レヴァンやエンジニアのウォルター・ギボンズらによって確立された。やがてラリー・レヴァンやフランソワ・ケヴォーキアンなどの有名ディスコDJたちはレコードを発掘するにとどまらず、自ら音楽プロデューサーとしてダンスに特化したレコードを多数リリースしたり、リミックスを手がけるようになる。ダンスフロアとダンサーの心理やツボを知り尽くした彼らは、それまでの音楽プロデューサーが思いもよらなかったような様々なテクニックやスタイルを導入した。こうしたダンス・レコードをリリースしてディスコ文化を支えたレコードレーベルとしては、サルソウル・オーケストラ、ファースト・チョイスなどが在籍した「サルソウル・レコード」、ドナ・サマーらが在籍した「カサブランカ・レコード」などが挙げられる。
ーWikipedia「ディスコ」より
Larry LevanはParadise Garageのオープン後にプロデュース業も行うようになり、現場で培われたフロアを盛り上げるテクニックやスタイルを活かし、数多くのヒット曲を世に出すことになります。
そうして彼の生み出す音楽はParadise Garageの枠を超えて、次第にレコードを買う人々をも魅了していったのです。
なお、Larry LevanがParadise Garageでプレイしたほぼ全てのレコードのリストがSpotifyで共有されています。それが以下のリストです。
日本のSpotifyでは918曲しか再生出来ませんが、1060曲がそれに該当するそうです。
非日常を体感し、生きていることの喜びを感じ、強いメッセージを受け取り、日常への活力を得る場...ミュージシャンのライブとはそういう部分は勿論あるのですが、Larry LevanとParadise Garageにはなんだか小沢健二さんのライブで度々強調されるようなことが含まれている気がして、なんだかドキッとします。
『So kakkoii 宇宙 Shows』の物販会場でかかっていたBGMについて
私が、小沢健二さんが特に今回のライブにおいてParadise Garageを意識しているのでは?と思ったのは、『So kakkoii 宇宙 Shows』の物販会場において、とあるBGMがかけられていたことがきっかけでした。
例えば、ツアー初日のパシフィコ横浜の物販会場では、物販のレジの片隅に置かれたION社製のスピーカー「Block Rocker」に直接iPhoneを繋ぎ、大音量でビート強めの非常にダンサブルな曲がかけられていました。
[会場のIONのスピーカーの写真か動画]
会場では、私が把握している限りですが、以下の曲が流れていました。
- Merc & Monk "Carried Away (Larry Levan Remix)"
- Gwen Guthrie ”Seventh Heaven”
- Dee Dee Bridgewater ”Bad For Me (12" Long Version)”
- Man Friday "Love Honey, Love Heartache"
- Gwen Guthrie "Padlock (Long Version)"
- Peech Boys "Life Is Something Special (Special Edition)”
- Syreeta "Can't Shake Your Love (Larry Levan Mix)"
- Tramaine "The Rock (Garage Vocal Version)"
- Man Friday "Groove (Larry's Yaw)"
このアルバムのDisc1から9曲が会場でかかっていたことが確認出来ました。
(以下のトラックリストの中で会場で確認できた曲に○を付けました。)
横浜、神戸、東京2daysと公演を聴きに行ったので実際に会場で流れているBGMを確認しましたが、恐らく同じ曲がかかっていたのではないかと思われます。
Larry Levan - Genius Of Time (2016)
[Track List] ・Disc.1 01. NYC Peech Boys - Life Is Something Special (Special Edition) ○ 02. Syreeta - Can't Shake Your Love (Larry Levan Mix) ○ 03. Gwen Guthrie - Padlock (Larry Levan Mix) ○ 04. Man Friday - Love Honey, Love Heartache (A Larry Levan Mix) ○ 05. Merc & Monk - Carried Away (Larry Levan Remix) ○ 06. Dee Dee Bridgewater - Bad For Me (Larry Levan Mix) ○ 07. Bert Reid - Groovin' With You (Vocal, Levan Edit) 08. Tramaine - The Rock (Garage Vocal Version) ○ 09. Man Friday - Groove (Larry's Yaw) ○ 10. Jimmy Ross - First True Love Affair (Larry Levan Remix) 11. Gwen Guthrie - Seventh Heaven (Levan Mix) ○ ・Disc.2 01. David Joseph - You Can't Hide Your Love (Larry Levan Mix) 02. Grace Jones - Feel Up (Larry Levan Mix) 03. Gwen Guthrie - It Should Have Been You (Larry Levan Mix) 04. Loose Joints - Tell Me (Today) (Larry Levan Mix) 05. Esther Williams - I'll Be Your Pleasure (Larry Levan Mix) 06. Man Friday - Real Love (The Paradise Garage Mix) 07. Central Line - Walking Into Sunshine (Special Mix) 08. Jeffrey Osborne - Plane Love (Specially Remixed Version – Larry Levan Remix) 09. Gwen Guthrie - Peanut Butter (Long Vocal) Larry Levan Remix) 10. Smokey Robinson - And I Don't Love You (Instrumental Dub)11. Peech Boys - Don't Make Me Wait (Extended Version)
会場で流すBGMとしてこのアルバムを選択したのは、もしかしたらひとつには権利上の問題もあったのかも知れません(小沢健二さんはユニバーサルミュージック・ジャパン内のVirgin Music所属)。ただ、例えそうであったとしても、彼の音楽について知るには良いアルバムだと思いますし、実際会場に行き雰囲気を体感した者の感想として、物販会場のクラブを彷彿とさせるブラックライトの照明の演出も含めて、物販を購入する際の気分が高揚したのは間違いないですし、ライブが始まる直前の気分をあげるのには凄く良かったと思いました(それとは別に、お目当てのグッズが売り切れないか気が気ではなかったというのも勿論あったのですが)。
では、小沢健二さんはなぜ物販会場でLarry Levanの曲をかけていたのでしょうか。
それは、ライブでも歌われた小沢健二さんの楽曲『強い気持ち・強い愛』と筒美京平さんとのエピソードに隠されているような気がしています。
強い気持ち・強い愛とガラージ
1995年に発売された『強い気持ち・強い愛』。
この曲は1995年の楽曲でありながら現在に至るまで根強い人気を持つ楽曲のひとつです。
それがアルバム『So kakkoii 宇宙』発売が告知された2019年春に新たな編曲がなされて『強い気持ち・強い愛 1995 DAT Mix』として発売され、多くのリスナーに届くこととなりました。
そして『強い気持ち・強い愛 1995 DAT Mix』は今回のライブでも演奏されました。
今回のライブにおいて『強い気持ち・強い愛』は間違いなく中心に位置する楽曲であり、ライブの中でも最も熱量が込められ、最も会場が盛り上がったシーンでもありました。
この力強いエネルギーを持った曲はどのように作られたのでしょうか。
『強い気持ち・強い愛』の制作の背景
2020年11月、小沢健二さんは2020年に逝去された筒美京平さんへの追悼として、彼との思い出や共作をした『強い気持ち・強い愛』『それはちょっと』についてのエッセイをSNS上に寄稿しました。
そのエッセイの中には、筒美さんとの交流の中で、ガラージ/ディスコ調のドラムの曲をやりたいと、ロレッタ・ハロウェイ、グレイス・ジョーンズなどのレコードを筒美京平さんと聴いていたとあります。
筒美京平さんへの追悼として、思い出です。どうしても派手な話(高級車とかワインとかお金とか)が並び、そこだけ切り取られると誤解されるので、抜粋・引用はしないでください。長い全体を、ある私小説、ある鎮魂歌、ある手紙として読んでいただけたら、うれしいです。 pic.twitter.com/AqxxaApsvQ
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) November 15, 2020
この「ガラージ/ディスコ調のドラムの曲」は『強い気持ち・強い愛』を指しています。
『強気強愛』は元ネタが幾つか存在することが既に知られていますが、その中にロレッタ・ハロウェイの楽曲も含まれています。
強気強愛の元ネタとして知られた楽曲
- LOLEATTA HOLLOWAY / DREAMIN' (1976)
- MFSB /SEXY (1975)
- GARY TOM'S EMPIRE / 7-6-5-4-3-2-1 (1975)
など
それらはいずれも1975年から1976年の楽曲で、いわゆるガラージ/ディスコ調の楽曲です。
「ガラージ」(またはガラージュ)というジャンルの楽曲は定義が非常に曖昧ではあるのですが、Larry LevanがDJでかけていた、或いは彼がかけそうな彼の好みの楽曲であると言われています。ガラージというのは「パラダイス・ガラージ」のガラージですが、Paradise Garage が倉庫(Garage)跡に作られたこと、そしてそこでLarry Levanによってかけられた曲たちのことを指すそうです。
Larry LevanがDJでかけていた楽曲はストリングスを多用したダンサブルかつソウルフルな楽曲で、「サルソウル」や「フィラデルフィア・ソウル(フィリー・ソウル)」といったジャンルの曲が含まれています。ただ、彼がParadise Garageでかけていた曲は非常にジャンルレスでもあったそうで、そこが曖昧な定義であることの所以となっているようです。
ラテンパーカッションが印象的なゴージャスなフィリーソウル風のディスコ・サウンドを背景にLoleattaの力強くエモーショナルなボーカルが楽曲全体を包み込みます。
LOLEATTA HOLLOWAY "DREAMIN' " は1976年に米国でヒットした曲で、アルバム『Loleatta』(1977) に収録されています。
MFSB "SEXY" は1975年に米国でヒットしたインストルメンタルの曲で、アルバム『Universal Love』(1975)に収録されています。MFSB(Mother Father Sister Brother)はストリングスやブラスバンドに特徴づけられる、1970年代前半に一世を風靡したフィラデルフィア発のソウルミュージックの一形態、フィラデルフィア・ソウル/フィリー・ソウル(Philadelphia soul / Philly soul)の代表的なインストゥルメンタルバンドである。ストリングスを擁した華麗で柔らかく甘めのサウンドが特徴で、それまでのソウル、R&Bをより洗練された都会的雰囲気のサウンドに変貌させた。(Wikiより)John A. Jacksonの著書『A House on Fire: The Rise and Fall of Philadelphia Soul』によると、MFSBの名前の「クリーン」バージョンは「Mother, Father, Sister, Brother」という意味で、Kenny GambleとLeon Huffによると、Philadelphia International Recordsでは多様性はあっても全員が音楽的につながっていたためである(要出典)。これは彼らの当時の精神観と一致している。もう一つのバージョンは「mother-fuckin' son-of-a-bitch」で、これはミュージシャンの間でその人の音楽の腕前を褒めるために使われていた表現である。(Wiki "MFSB"(英語版)より)Stevie Wonder ”Superstition” (邦題『迷信』) にみられるようなクラビネットの跳ねるような音が特徴的で、聴いていると思わず踊りだしたくなります。この曲は Roger Cook が作曲した Blue Mink ”Get Up” (1974) という曲を Gary Toms Empire が新たに録音をし直し、タイトルを "7-6-5-4-3-2-1 (Blow Your Whistle)" に改めて発売しました。タイトルにもある決めのところのカウントダウンが格好良いディスコ調の曲です。
GARY TOMS EMPIRE "7-6-5-4-3-2-1 (Blow Your Whistle)" は1975年に発売されたキーボード奏者GARY TOM率いるニューヨークのバンドのファーストシングルです。
『強い気持ち・強い愛』が出る前に世に出た名盤『LIFE』(1994) の曲たちは60年代から80年代までのブラックミュージックが基になっています。
それはLIFEのロゴ自体がSly & the Family Stone の3rdアルバム "Life" (1968) のジャケットで使用されたロゴの引用であることからも伺えます。
『天気読み』と『強い気持ち・強い愛』
ディスコ調と言えば、2010年の『ひふみよ』ツアーでは(ライブ盤『我ら、時』を参照)『天気読み』にディスコ調のアレンジがなされていますが、そのギターリフが本ツアーの『天気読み』の演奏でも踏襲され、更にストリングスを加えた豪華なアレンジが加えられていました。
『天気読み』がディスコ調であるのは、ガラージを意識したとも考えられます。
今回のツアー『So kakkoii 宇宙 Shows』では『天気読み』も演奏されましたが、『強い気持ち・強い愛』に挟まれて演奏されていました。
このことから、2つの曲の繋がり、関連性が見て取れるのではないでしょうか。
※天気読みの元ネタとされる曲
Stevie Wonder "Tuesday Heartbreak"
※そう言えば、IncognitoのBlueyさんによるApple Musicのポッドキャスト”Groove Velocity Radio with Bluey”のEpisode 107で、小沢健二さんの曲が選ばれていましたね。2023年1月20日のインスタストーリーで小沢健二さんご本人が言及されていました。
小沢健二の天気読みの「星座から遠く離れていって景色が変わらなくなるなら」の一節が、イームズのPower Of Tenに触発されたもの
https://twitter.com/siphon_g/status/1196064630147170304?s=20&t=pmROBX1x4dlVOcvK9cvNag
この元ネタの中には『So kakkoii 宇宙 Shows』の物販でもかけられていたロレッタ・ハロウェイの曲もありますね。
『強い気持ち・強い愛』はNYに存在したパラダイス・ガラージでラリー・レヴァンがかけていたガラージ/ディスコ調の曲の影響が濃厚に出た作品と言えます。
※「ワウ」:「チャカチャン」「チャカポコ」と一定のリズムで鳴るクチャクチャしたエレキギターの音。ワウペダルを使用してカッティングにフェクトをかけている。ソウルフルなギターとも表現される。ワウペダルとはペダルを踏みこむことで周波数を変化させ、モコモコした音からキャンキャンした音までをスムーズに変化させることができるエフェクター。ワウギターが特徴的なストリングスの楽曲としては、Barry White によって結成された40ピースの弦楽器オーケストラ Love Unlimited Orchestra による曲 "Love‘s Theme"(愛のテーマ)(1973) がよく知られている。
Nuyorican Soul - Runaway
ツアー直前に販売された『ツアーを待つ、アドベントカレンダー』でも自身の曲だけでなく、マイノリティのシンガーをピックアップしたり、その多様性から生まれる強いエネルギーをライブに取り込もうとしているようでした。
『The Harmony Tour』と銘打たれ、1992年に来日した際にクラブ芝浦GOLDでプレイしたときの模様が収録された貴重なミックス音源がこちらです。
https://floormag.net/larry-levan_legendary_mix/
Larry Levan Live @ Gold, Tokyo (September 1992) [The Harmony Tour]
https://www.youtube.com/watch?v=K52ddJv-keU
1977年~1987年まで営業していたニューヨークの超人気ゲイクラブ「Paradise Garage(パラダイス・ガラージ)」のメインDJとして斬新なクラブサウンドを量産し、ニューヨークのクラブシーンを10年以上リードした。「パラダイス・ガレージ」は、ラリーをイメージして作られたクラブであり、特定のDJのために作られた稀有なクラブだった。ラリーはここを音楽の神殿として扱い、音楽、音響設備以外にも、ありとあらゆるディテールに心を注ぎ、癒しの空間を提供し熱狂的なファンを魅了し、「ガラージュ」(又はガレージ・ミュージック)と呼ばれる一つの音楽ジャンルを生み出した。
(Wikipedia「ラリー・レヴァン」より)
『強い気持ち・強い愛』は彼の生み出したジャンル「ガラージ/ディスコ調」を強く意識した曲
Larry Levanはその中心的なDJでした。
Paradise Garageには、身体的特徴、年齢、性別などに囚われない様々な人びとが彼の音を求めてきました。
Paradise Garageのあった建物は今は無くなっているようです。
ひょっとしたら小沢健二さんは、自身のライブにParadise Garageのような空間を思い描いているのかも知れません。
千秋楽では、『今夜はブギー・バック/あの大きな心』の後に、「有明最終日、1992年へ!」と言った後、スチャダラパーの3人が登場し、『今夜はブギー・バック(smooth rap)』が披露されました。
1992年といえば、小沢健二さんがフリッパーズギターを辞めて、スチャダラパーと遊んだりしていた頃のことです。
自分のソロ作品にはその時の色んなものを詰め込みたい、と思ったのかもしれません。
'92年というのがボクの創作の原点なんですね。その1年間、ボクがこれまでいろいろ勉強したり考えていたことが、全部凄い勢いで浄化されていったんです。
(『月刊Views』1995年8月号より)
1992年の小沢健二さんについては、こちらの方のnoteが非常によくまとまっています。
1992年の小沢健二さんのクラブの雰囲気の感じと、アメリカのクラブの感じと。
今夜はブギー・バック/あの大きな心は2001年『Eclectic』当時のNYCでの生活で鳴っていた音やアメリカのクラブの感じを表現したのかも知れません。
小沢健二『So kakkoii 宇宙 Shows』とParadise Garage
「離脱」
「離脱」。良いことからも、悪いことからも、一瞬、逃れられたらいい。ー小沢健二『So kakkoii 宇宙 Shows』朗読「離脱」より
小沢健二のライブは「ユートピア」なのか?
「2016年に『魔法的』というツアーをZeppとかでやったんですけど、すぐに完売しちゃって、『良い意味でユートピアみたい』と言われたんだけど、『もうユートピアじゃないほうがいい、もっとめちゃくちゃなほうがいい』と思って(今回『春の空気に虹をかけ』を演った)」「でもこれでもまだユートピアって言われるんですよ」(2018年5月3日、小沢健二『春の空気に虹をかけ』千秋楽の小沢健二さんのMC)※うろ覚えなので細かい部分は違っているかもしれません。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) January 2, 2022
「Pluriverse」という単語について
アルバム題の英訳はSo Kakkoii Pluriverse。宇宙をUniverseと訳すのは、僕は今は無理。Uniは一つという意味なので、一つの見方ではダメな今の時代、「一つの宇宙」は語感が悪い。そのためにPlural(複数の)を冠したPluriverseという言葉が現れ、今はただ”宇宙・世界”という意味で、僕は普通に耳にする。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) November 13, 2019
森田「Pluriverseについてはこれまで様々な論争があったんですが、重要なポイントは、世界は独立して在るわけではないということです。繋がっているんだけど、ズレていたり、繋がっているからと言って簡単に包摂や理解できるわけではないという在り方です。そのような状態で異なる方向に発展することが持続可能性のためにも、先進国と開発途上国の構造的な不平等を正していくためにも必要だ、というのがエスコバルの主張です」上平「なるほど。白か黒かに単純化するのではなく、複雑さのなかで捉えなければならないということですね」中野「森田さんがおっしゃった空間的な捉え方に加えて、時間軸の捉え方もあると考えています。これはフランスの哲学者セルジュ・ラトゥーシュの解釈ですが、Universeという語の中にあるverseとはラテン語のversumに由来しており、『ある方向に進む』という意味です。Universeとは単一の方向に進むという意味で、開発論においてはまさに近代化論にあたります。対してPluriverseとは、複数の方向に世界の運命(未来)が開かれるという意味となり、ラトゥーシュもそうした意味を込めて用いています。こうした時間軸の視点も加えて考えると、Pluriverseの持つ意味とパースペクティブが豊かになるんじゃないでしょうか」(ものの見方や態度の変容を促す役割としての「デザイナー」へ──「Designs for the Pluriverseを巡って:デザイン、人類学、未来を巡る座談会」後編より)
水道民営化もFTAも、Racism(人種主義)もグローバル社会諸々も、14年前から著作として、文献と生活をふまえて何重にも論考してきました。その中で学んだことは全部、『So kakkoii 宇宙』に入ってます。音と言葉で鳴らしています。なので今は論考に戻るつもりはないです。誰もいない先へ、行きたいです。 pic.twitter.com/uUjIrE3AfC
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) December 8, 2019
Woke「起きている」(発音:ウォゥク)とは、社会・政治性を意識していること。今どきはUS若者にとってファッションの第一条件にさえなっていて、最近はwokeness(派生語:社会意識の初心者的暴走をからかう感じの語)もよく聞く。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) February 8, 2020
語源は黒人文化。僕は流動体についてという曲で「起きている君」を描いた。
脚注
注1:「齢をとる」という漢字表記は小沢健二『それはちょっと』『春にして君を想う』の歌詞の漢字表現を基にしました。
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